玉川の町屋
甲村健一/KEN一級建築士事務所
設計/甲村健一 KEN一級建築士事務所 撮影/鈴木研一
光を廻し、空間を連ねる
都心に建つ住宅の設計である。間口6m×奥行20mと南北に長く、東西に隣家が迫る敷地において、南北からの採光をどのように内部へ廻すかが主題となった。本計画では全体を間仕切り壁の少ない一体空間とし、内部に垂壁やフィンといった面の要素を光の方向に沿って挿入した。面には凹凸や光沢のある仕上げを用いることで、素材の陰影と反射がグラデーションのような光の濃淡を生み、南北に連なる空間の魅力を引き出す。特にLDの中心にはタイルの衝立を設え、暗くなりがちな建屋中央でも、タイルに反射する淡い光の表情を感じられる。面の構成が壁という建築的要素に留まるのではなく、空間に光を映し込むアートへと昇華できたと思う。
南北に長いオープンスペース、その中心に真っ白なタイルの衝立が艶々と光を反射させ佇んでいる。その周囲は、床・壁・天井とどれもマットな仕上げ面で、一見では艶やかなタイル壁面がレフ板の様に光を反射させる存在として、他の面との対比、違和感の計画に見えたのだが、注意深く見ていくと、周囲のマットな面要素にもそれぞれの表層に凹凸があり、微細な光のグラデーションを内部へと運んでいるのだ。近似値のトーンの中でも数々の光のテクスチュアを試作する空間である。
Nami Zaimokuza
松井一哲+永田敦
設計/松井一哲+永田敦 施工/エヌアールワークス
さざ波に包まれた空間
鎌倉の海辺にある一軒家。既存のキッチンをリノベーションし、休日だけ小さな喫茶室として人を招き入れられる場を設えた。「Nami」という店名から、さざ波をイメージした形状と色合いのタイルを採用し、模様を際立たせるためにチャコールグレーのカラー目地を用いている。細長いモザイクタイルだからこそ可能だった2 面の壁を繋ぐ曲面壁は、配線・ダクトを納めるためのカバーの役割も兼ねている。本タイルを用いることで、曲面に包み込まれる柔らかな空間が実現した。
「シェブ」SHB-S2
鎌倉にある一軒家で、休日だけ喫茶室として使用するという。住宅と商業の性格を併せ持つ空間である。そうした空間で、カジュアルな表情の木材が住空間らしさを表現し、壁面に貼られたタイルが、商業的な非日常性を表現している。縦長のタイルが曲面壁にも自然に馴染んでおり、チャコールグレーのカラー目地が、独特の印象を生んでいる。タイルは、厨房まわりのクレンリネスにも貢献しているだろう。色味や質感のバランスも良く、審査員4人が高い得点を投じた。
Jaja's library+house
影山仁/株式会社ジェネビル+小村秀数+工藤俊輔
設計/影山仁 株式会社ジェネビル+小村秀数+工藤俊輔 施工/株式会社ジェネビル 撮影/石田剛基
日常を演出する階段
二階に居住し一階で私設図書館を営むオーナーにとって、階段は職住の切り替えとなる空間である。トップライトから床まで貼り下ろされたタイルは、朝陽を爽やかに導き、夜は照明光と合わさり落ち着いた雰囲気を演出しており、一日を情緒的に演出する役割を担っている。光に繊細に反応し表情を変える「キャンプディーゼル」はこの空間を実現するのに最適なタイルだった。
「キャンプディーゼル」ISC-F1020・F1070・F1071
白い階段室の空間に、まるでトップライトから「空そのもの」が降りてきたような美しい作品。おそらく縦導線である階段室は、プラン的には壁に窓を開けられるような場所ではなかったのではないかと想像されるが、それを逆手にとり、トップライトからの光がより特別なものに感じられるように、タイルを利用している。上下移動をするたびに、気持ちの切り替えができる、素晴らしいアイディアである。面積はささやかかもしれないが、間違いなくこの建築の要となる場作りだ。
M様邸
三井ホーム北海道株式会社
自然に囲まれながら豊かに暮らす家
都会から離れた場所で、自然に囲まれながら、お施主様自ら厳選し選び抜いた大好きなモノに囲まれて豊かに暮らす家です。
サンルーム床/「マイアミ」SEC-Z6520
洗面壁/「コラベル」NLA-KEKKON-MIX
浴室壁・床/「ノール」OR-U3510
浴槽/「ベアリクス」BEA-10
玄関ニッチ/「ル・コルビジェ」GGC-Q32020他
どの空間もタイルの特徴が現れた生き生きした空間になったと感じた。タイルは、かたち、色、艶に始まり、テクスチュア、色ムラ、古びた表情など、様々な趣味嗜好に応える素材と言える。タイル選びの目が意欲的積極的であり、新しいものも選び出している。率直な思いが感じられ、好感を持った。たくさん見て知ることを楽しみつつ時間を掛け、自身の空間へと想いを巡らせたのではと想像は尽きない。特に大判タイルを壁面に埋め込んだ棚はとても大胆で斬新。ジャストに埋め込むための苦労もあったのではと想像した。気に入ったタイルが暮らしに溶け込む空間が素晴らしいと感じる。
小野佳子様邸
株式会社オノヤ
設計 株式会社オノヤ 田中満 大関優太
存在感を出して調和させる
30畳にも及ぶ大きなリビングダイニングキッチンを支える太い2本の柱に印象的なタイルを施工することで、空間のアクセントとなり、平滑な雰囲気になることを避けています。さらに特徴的な色合いのカリン材の床とブルーグリーンのタイルを調和させるため白く大きなソファで空間を引き締めています。
「クロジョーロ」MRZ-F7030
広々とした空間の中で、唯一動かすこの出来ない2本の柱を、深い青緑の「クロジョーロ」を貼ることで空間の軸に据えた、逆転の発想が見事な作品。タイルで引き立たせた2本の柱は、赤みを帯びたフローリングとの組み合わせにより、この部屋に統一した一つのイメージも作り出している一方、その存在が空間的に二つの中心をつくり、家具を配置するよりどころとしても機能し、ダイニングとリビングというエリア分けも担っている。
ライオンズフォーシア築地ステーション
株式会社インタープラン・デザインセンター
都心でのアートな暮らし
銀座に近く位置する築地での「アートな都心生活」をコンセプトに、レジデンスらしさから少し脱却したイメージを新しいタイルの意匠性を借りて全体デザインに表現した。
外壁/「特注品」MAX-75H-白市松・黒市松
エントランス床/「ライトエッジ」CAP-X4280G
エントランス壁/「シェードディーゼル」ISC-F5950
「シェードディーゼル」の大胆な利用が目を引く作品である。「シェードディーゼル」は、まるでタイルの形状が一枚づつ円弧状に湾曲しているかのような目の錯覚を生むが、これを水平に割り付けたことで、エントランスに水平方向の動きを感じさせる、独特の空間を生み出している。プラン的には多方向に抜けのある計画となっていると思われるが、こうした計画的側面とタイルの作る水平移動性の相性が大変よく、見事な統合と言える。
山城の家
tane+福澤アンナ
設計・デザイン/福澤アンナ
縁側を楽しむ家
施主のおじい様が建てた築80年の民家をリノベーションした計画です。ダイニングキッチンと和室3部屋を大きなワンルームにして、縁側も部屋の一部として楽しめる様にしました。その南側の縁側スペースに印象的な青いタイルを敷き詰め、ひと続きの空間でありながらも時間の流れが違う様な特別空間に。読書をしたり、朝ごはんを食べたり、窓を開いてバーベキュー空間になったりと家族が集まる空間ができました。冬には太陽の光によってタイルが蓄熱し、暖かくなり、夏には庇によって太陽光が届かない様にしたので、ヒンヤリ涼しい気持ちの良い場所です。昔ながらのパッシブデザインをより積極的に機能する様にタイルを取り入れました。
「ペスカード」PES-25
祖父から受け継いだ家のリノベーション。施主は元々の家の姿や使われていた様子を記憶に留めていることだろう。以前の空間と今新しい空間とを掛け合わせて、想い出と想像を膨らませるのかもしれない。家の骨格を残し、柱、天井の傾斜、床の間、縁側での想い出もありそうだ。低い目線にある床の素材を敏感に捉えていて、畳、板、その先の縁側に嵌め込まれた瑞々しいブルータイルには驚きと共に強い印象が残った。季節の移ろいを肌でタイルから感じ取るアプローチは新鮮で、過去の経験から引き出されたのかもしれない。
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