タイルの名古屋モザイク工業株式会社

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TILE TREND COLUMN #22

最新のタイル技術と持続可能性

2005年に日本の神戸市灘区にある JR六甲道駅南地区に、阪神淡路大震災復興の一環として防災公園が設けられました。その六甲道南公園の内には「イタリア広場」と名付けられた特別なスペースがあります。この広場の設立は、2001年の「日本におけるイタリア年」を記念し、日本とイタリアの建築界が共同で行った国際アイデアコンペを通じて実現しました。約0.93ヘクタールのこの公園は、イタリアの都市風景を模倣し、防災機能と文化的交流の場としての役割を兼ね備えています。この広場には、地盤のうねりをValley(バレー)と名付けたモニュメントが設置されました。地面は動くものであることを意識させることにより、自然に対する畏敬の念を表わしています。


2005年当時のパース図

その表面には、エミリア・ロマーニャ州とイタリア・セラミック工業連盟(Confindustria Ceramica)を通じて寄贈されたイタリア製のセラミックタイルが使用されています。モニュメントは、建築家のラウラ・マッシーノとバルバラ・アニョレットによって設計され「地震のメモリアルとなる広場」として悲しみから希望へ向かう市民の願いと力を表現したものでした。このセラミックタイルは、外構床向けの強度の高いタイルで、サイズは200×200mm角、厚みは16mmの青い空や海を思わせる色合いです。また緊急車両が利用可能であることを前提として 、車両の通行や摩耗に対する耐性、雨やその他の要素に対して滑りにくい特殊な面状が開発されました。6本の異なる幅のボーダー状の凸部分があり、すべりにくい岩面の型押しが施されている凝ったタイルでした。タイルの配置は、人々がモニュメントの斜面上で動きやすいように、通常は水平で使う横筋ボーダーを垂直に配することや、さらに20mm程度ずらして張ることで、滑らかでリズミカルな動きを感じさせるデザインになっています。


JR六甲道駅南公園「イタリア広場」

寄贈されたイタリア製のセラミックタイル

2005年プレート

このタイルを提供したセラミカ・デル・コンカ社(Ceramica del Conca Spa)は、イタリア北部の中核都市ボローニャから伝統的な焼き物の産地であるイモラ、ファエンツァと続いた先のエミリア街道の終点リミニの近郊にあります。同社は、1962年の創業以来、常に最新の技術を駆使してセラミックタイルを製造し続けており、 2017年にはニューヨークのメトロポリタン美術館の屋上庭園で使用されたことで注目されました。このプロジェクトでは、チェッカーパターンにデザインされた 600×600mm角、20mm厚のタイルの上にアドリアン・ビジャール・ロハスの彫刻作品「消失の劇場」(The Theater of Disappearance)と題された展示が行われました。この事例は、タイルが持つ普遍的な機能や意匠が、文化的背景が異なる場所であっても、モニュメントや芸術作品を支え、人々を結びつけることができる素材であることを示しています。

「The Theater of Disappearance」600×600mm角 / 20mm厚のタイル 2017年 Ceramica del Conca Spa

近年、厚みのあるタイルを実用的に使用した例として、JR 横浜駅構内のスロープ通路が挙げられます。スムーズな旅客流動のために、スロープの通路が設置され、20mm厚のセラミックタイルが張られています。このスロープは 1/12の勾配で、始まりから終わりまでの高さ差は約3.5mに達します。下から上がる人にとってはスロープが壁のように見えることがあるため、圧迫感を与えないように、明るい色のタイルが使われています。またスロープ 通路の途中にはフラットな踊り場があり、濃い色の天然石調タイルを配置しています。利用者が スロープの変化を色差によって視覚的に認識しやすいように、タイルの素材感を薄くナチュラルに仕上げています。勾配のメインに使用されている木目調のタイルは1200×200mmの横張りで、足のサイズに合わせて目地が入るようにデザインされています。タイルの一部には斜めカットの形状が施されており、デザイン性も高められています。このように、横浜駅のスロープ通路には、バリアフリーの観点からとデザインの観点からも工夫が凝らされています。

JR横浜駅南部高架下 建築設計:株式会社JR東日本建築設計 環境デザイン:ROWEDGE INC. 2020年

セラミックタイルにおける生産技術の進化

このようなセラミックタイルの機能とデザインの高度化は、生産技術の進化によって支えられています。2000年代以降、イタリアのタイル製造技術は飛躍的に進化し、デジタル装飾技術の発展やプレス設備の進化が特に目立っています。イタリアの焼き物の産地のひとつ、エミリア街道沿いの街、イモラにある、サクミイモラ社(エミリア=ロマーニャ州ボローニャ県)は、1919年設立の老舗で、陶磁器、包装、飲料、金属、食品産業向けの機械とプラントを製造している国際的なグループです。タイル製造におけるプレス機械は、1980年代から約30年かけて、2010年に10,000トンプレスにたどり着きました。2000~2010年代には中国の多くの工場に配備されて、それらの製品は日本にも多く輸入されるようになりました。600×600mm角タイルが一般化した影の立役者でもあります。 大型タイル向けのプレス機の進化では、1980年代に600トンプレスが登場、1990年代には1,500トンプレス、2000年代に3,000トンプレスとなり、2010年代10,000トンプレスへと進化して、より大型のセラミックタイルが生産されるようになりました。


サクミ社の10,000トンプレスと1,800mm×600mmタイル生産

システムセラミック社 ラメガ・44000
最大サイズ4,800×1,600mm、厚さ3~30mm、金型無しで最大2mmまでの凹凸面状が可能。
最大生産能力は日産17,000m2。最新のスーパーファストは、最大日産23,000m2、生産エネルギーの削減率最大70%。

一方で、ラミナムの商標で知られるシステムセラミック社は2001年設立(現在はCoesia Group)の比較的新しい会社で、タイル産業の集積地である「フィオラノモデネーゼ(イタリア・モデナ)」にあり、フェラーリの工場があるマラネッロと隣接しています。その影響かどうかはわかりませんが、後発ながらもシステムセラミック社は革命的なキャタピラベルト式のプレスを生み出しました。2002年世界初の超大判技術により最大寸法4,800×1,600mm、厚さ3mmから30mmまで生産可能な設備ができました。特に驚くべくことは、形状別に必要であった金型がいらなくなり、プレス圧は17,000トン(最大サイズ2,400×1,200mm)から25,000トン(最大サイズ3,600×1,200mm)と従来の数倍から10倍の圧力で巨大なタイルを製造することが可能になったことです。開発当初、製品は3,000×1,000mm、厚さ3mmで、柔軟性が低く折れやすいものでした。イタリアの大手タイルメーカーは、イモラサクミ社の従来型のプレスに慣れていたため、はじめは導入に懐疑的でしたが、一社、また一社と設備を導入しました。今では世界各国にプラント輸出されています。さらに、後年にはサクミイモラ社もシステムセラミック社と同様な方式の設備を開発して、新旧の2大設備メーカーとして開発競争が続いています。 最近の生産設備の進化ではシステムセラミック社が「スルーヴェイン(積層模様)」と呼ばれる新しい装飾技術を開発しました。この技術は、自然界の天然石であれば沈殿物の集積により数百万年かけて形成されるプロセスを、わずか数分の工程で、セラミック内部にリアルな模様や質感を作り出します。この技術は「ジェネシス」と名付けられ、 3Dデジタル制御システムを用いて、特定の場所に粘土の色粉を正確に放出し、望んだデザインを実現することができます。 この技術の進歩によって、セラミックのスラブ材の製造分野では、美しさと機能性を組み合わせた新たな可能性が 開かれました。これらは質感、強度、耐久性に優れており、その多様性から家具やデザイン業界での利用が広がっています。特に、「ジェネシス」システムは、高速プレス機とデジタルプリンターを統合したハイブリッドシステムを採用しています。このシステムでは生産ラインにおける製品の移動がないと同時に、迅速に反応する粉末プリントヘッドによって、大理石や天然石の高級な見た目を忠実に再現しながら、生産スピードと技術的品質を両立させています。

Iris Ceramica Groupの4Dセラミック

また、イタリアの大手タイルメーカーのイリス・セラミカグループ(Iris Ceramica Group)も、フルボディタイルの表面装飾が厚みの面まで同じ柄が続く独自の技術を開発して、4Dセラミックと呼称しています。4Dは、イリス・セラミカグループの目指す持続可能性に対する価値観と一体となった製品で、それは製造工程にも反映されています。


4Dセラミック

4Dは、Iris Ceramica Groupが開発したフルボディ技術

4Dセラミックを使用したキッチンカウンター

タイルは「張る」から「創る」マテリアルへ

数年前の常識では、タイルは「張る」ものでした。しかし現在では、先に述べた技術革新により、家具・キッチン・洗面台など、空間そのものを「創る」マテリアルへと進化しています。


Iris Ceramica Group
− タイルのシェルフとテーブル


Iris Ceramica Group
− タイルの造作洗面台

Iris Ceramica Group − タイルのチェストボックス

設備の器具を最小限に抑え、素材そのものを強調する傾向も強まっています。例えば、センサー機能をタイルの下に仕込んだ照明のスイッチ、キッチンのIHとタイルの天板の一体化、自動可動式の収納などです。このように、最新技術を活用して、よりミニマルでシンプルなデザインを追求している点も、現在のトレンドとして特徴的です。タイルは、単なる装飾を超えた新たなステージに向かっていると考えられます。

Iris Ceramica Group - ハイパータッチ技術(Hyper Touch)と可動式収納

Iris Ceramica Groupの持続可能な取り組み

イリス・セラミカグループ(Iris Ceramica Group)は、エディソンネクスト社(Edison Next)と共同で「H2 Factory」プロジェクトを進めています。このプロジェクトでは、再生可能エネルギーによって電気分解で生成される1MWのグリーン水素生産システムを構築。工場はイタリアタイル産業の集積地、カステッララーノに位置し、2025年から水素を動力源として稼働する予定です。持続可能性を重視した「4Dセラミック」大型スラブを生産し、特に高級家具の分野に、12mmおよび20mm厚の磁器質タイルの提供を目指しています。工場では、雨水を収集して電解水素生産システムの水源として使用し、既存の2MWの太陽光発電システムに加えて、 新たに1.2MWの太陽光発電システムを設置する予定です。生成された水素は、最大50%の天然ガスと混合して焼成窯に供給されます。また、100%水素で動く窯の研究も進められています。年間で約132トンのグリーン水素が生産され、約500,000立方メートルのメタンガスが置き換えられ、約900トンのCO2削減が見込まれています。脱炭素化への道のりの重要な一歩であり、他のグループ工場でもグリーン水素生産システムの開発が検討されています。特にエネルギーを多く消費する産業セクター(EUではアルミニウム、鉄、セラミックスを特定)の脱炭素化に向けた重要なステップであり、EUのクリーンエネルギー移行目標の達成に貢献する計画です。日本国内でも、セラミックの分野で、日本ガイシが水素燃焼のセラミックス焼成炉の実用化に向け、2023年6月に実証実験を始めています。


Iris Ceramica Group London Showroom

セラミックタイルの進化は、単なる装飾材料を超えた建築とデザインの未来を形作る重要な要素であることを示しています。美しさと耐久性、そして、持続可能性への試みを組み合わせることで、私たちの生活空間をより豊かで、環境にも責任あるものに変えていきます。

 
 

2024.9.26