タイルの名古屋モザイク工業株式会社

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TILE TREND COLUMN #28

REBORN TILE ─ タイルと歩む持続可能な未来

タイルの歴史は人類の文明とともにあり、世界各地でその文化的、芸術的背景を映してきました。その起源は古代メソポタミアやエジプト文明までさかのぼり、紀元前3000年頃にはシュメール人が焼成した粘土タイルを神殿や宮殿の装飾に用いた記録が残っています。これらのタイルには、色鮮やかな釉薬が施されているものもあり、当時の技術力の高さを示しています。古代ローマ帝国ではタイルを用いたモザイク技術が高度に発展し、公衆浴場や邸宅の床には精巧な絵画のような装飾が施されました。中世には、イスラム建築においてタイルはさらに発展を遂げました。例えばスペインのアルハンブラ宮殿は、幾何学的な模様のタイルが壁一面に施され、視覚的なリズムを生み出すデザインが特徴的です。ルネサンス期にはイタリアでマジョリカ焼きが人気を博し、明るい色彩と豊かな絵付けが施されたタイルがファサードや内装を華やかに飾りました。19世紀、産業革命の進展に伴ってタイルは大量生産されるようになり、公共施設や商業施設、住宅に広く普及していきました。
 

ガウディの独創性とトレンカディス技法

19世紀のスペイン・バルセロナを代表する世界的建築家、アントニ・ガウディは、タイルを独創的な方法で使用しました。彼が生み出した“トレンカディス”という技法は、割れた陶器や余ったタイルを再利用して、モザイク状の美しい装飾を作り上げる技法です。これは現代のアップサイクルの先駆けであり、資源の再利用という持続可能な考え方にも通じています。世界遺産に登録されているグエル公園やカサ・バトリョは、このトレンカディス技法による鮮やかな色彩と柔らかな曲線が特徴です。


トレンカディス技法を使ったグエル公園の円盤装飾

グエル公園のベンチ

グエル公園のトカゲ像

トレンカディス(Trencadís)
破砕したタイルをモザイク状に敷き詰める技法で、ガウディやモンタネーが設計した建築物に多く用いられている。

バルセロナで活躍したもうひとりの建築家──モンタネーの建築思想とタイル装飾の深層

ガウディと同時代にバルセロナで活躍した建築家 リュイス・ドメネク・イ・モンタネー(1850-1923)は、タイル装飾を芸術性と機能性を融合させる建築要素として捉え、独自のスタイルを確立しました。モンタネーはカタルーニャのモダニズム建築運動の中心人物のひとりで、建築と自然、地域文化や歴史的要素との調和を特に重要視しました。代表作であるカタルーニャ音楽堂(Palau de la Música Catalana)は、モンタネーの建築思想を象徴する建築物です。音楽堂は「音楽と建築の融合」というコンセプトに基づき、タイル装飾が重要な役割を果たしています。音楽堂内部はトレンカディス技法が巧みに活用され、色彩豊かな破砕タイルによる華やかな空間が広がっています。特にステンドグラスとタイルの融合が特徴的で、自然光が差し込むことで生まれる光の表情は、リズムやメロディを視覚的に表現しています。


音楽堂ホール天井中央のステンドグラスは、まるで音楽そのものが光として降り注ぐような印象を与える

多彩な色調のタイルは音楽の高揚感や躍動感を表している

色鮮やかな破砕タイルで装飾された柱

モンタネーが手掛けたもうひとつの傑作、サン・パウ病院(Hospital de Sant Pau)では、タイルが単なる装飾的要素を超え、衛生面や患者の心理的ケアに重要な役割を担っていました。タイルはメンテナンス性と耐久性に優れているため、多くの人々が訪れる病院という施設に最適な素材です。また、タイルが持つ鮮やかな色彩と豊かな模様は患者の精神的安定や快適さを促し、不安やストレスを和らげる効果がありました。さらに病棟ごとに異なるタイルのパターンを採用することで、視覚的にエリアを識別させるという実用的な工夫も施されています。


壁床に多用されるタイル

さまざまなタイルパターンでデザインされた天井

ピンク色のタイルや大理石で統一された温かみのある空間

サン・パウ病院のデザインにおいては、自然光や新鮮な空気を積極的に取り入れることが重要視されました。このようなアプローチは、療養環境の向上を目的としており、現代のバイオフィリックデザイン(自然との共生を重視するデザイン)の先駆けともされています。施設内外のタイルには植物や動物などの象徴的な自然のモチーフが多用され、患者に心理的な癒しと安らぎを与えていました。またスペインやポルトガルの伝統的なセラミック技法である「アズレージョ(azulejo)」を駆使し、青、緑、黄、赤などの多彩な色合いを配することで、病院特有の閉鎖的な印象を払拭し、開放的で心地よい空間を生み出しました。その結果、サン・パウ病院は病院という枠を超え、人々に美術館のような癒しと活力を与える空間となりました。


自然光を取り入れる開放的なデザイン

階段蹴込板のタイル装飾

145,000㎡の広大な敷地内には48の建築物が立ち並ぶ

病棟の外観にもさまざまなタイルが使われている

幾何学模様や植物をモチーフにしたデザインが特徴のアズレージョ

地域の伝統的素材や職人技の活用

モンタネーは地域性を重視し、地元で入手可能な地域の素材や職人技を用いることを好みました。地元の職人によって一枚一枚丁寧に焼き上げられたタイルは、絶妙な色彩の変化や独特な質感を持ち、現代の大量生産では決して再現することのできない美しさがあります。また、地域資源を活用することは、現代の視点でみても環境負荷軽減(地産地消)につながる環境配慮型の考えといえます。自然との共生、地域の持続可能性を尊重するモンタネーの建築思想や手法は、現代の環境配慮型建築思想の先駆的試みだといえるでしょう。

地域の素材を大切にしたリサイクルタイル「リネクシス」と「クレイリード」
美濃焼の歴史と未来への挑戦

名古屋モザイク工業の本社・多治見市が位置する美濃地方は、平安時代から続く日本有数の陶磁器産地として知られ、その名を「美濃焼」として広く親しまれています。特に桃山時代には茶道の需要に応じて美濃焼の発展が加速し、今日に至るまで食器やタイルなど多様な製品が生産されています。この発展を支えたのは、美濃地方に豊富に存在する高品質な粘土資源でした。しかし、何百万年もの時をかけて生成されたこれらの天然資源は、食器やタイル、ガラスなどの製品の生産に際し大量に消費された結果、現在では良質な粘土資源が枯渇しつつあります。この状況は大きな社会問題にも発展しています。こうした資源枯渇の問題に対処するため、現在では代替原料の開発やリサイクル技術の推進など、さまざまな活動や取り組みが各分野で進められています。当社でも、持続可能な開発目標(SDGs)に真摯に向き合い、社会的な責任を果たすべく、リサイクルタイルの活用を積極的に進めています。これからも美濃焼の伝統を守りながら、環境に配慮した製品開発を続け、日本を代表する陶磁器産地としての地位を維持しつつ、次世代への責任を果たしていこうと考えています。

リネクシス / Re-Nexis NEW

2025年春の新商品「リネクシス」は、100%リサイクルの国産品です。ガラスや食器の製造過程で生まれる窯業廃土、タイル生産で出る原料廃土、役目を終えた素焼き食器、廃棄釉薬の汚泥、さらには焼成後の廃棄タイルや規格外原料まで、これまで捨てられていたさまざまな国内原料を独自の技術で調合し、100%リサイクルタイルとして蘇らせました。


RNS-3226・3223・3221・3224

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リネクシスの詳細はこちら
 
 

クレイリード / Claylead NEW
リサイクル原料「砂利スラッジ」と「微粒珪砂(キラ)」。廃棄原料の再生が未来を築く。 

2025年春の新商品「クレイリード」は、道路建設や建築用途で大量に使用される砂利の精製過程、または陶器の原料となる粘土の精製過程で発生する産業廃棄物の「砂利スラッジ」や「微粒珪砂(キラ)」を最大で85%使用したリサイクルタイルです。「砂利スラッジ」と「微粒珪砂(キラ)」はこれまで元の場所に埋め戻して処分されていました。しかし、これらをタイルとして再生させることで、資源の枯渇問題や持続可能な開発目標(SDGs)の未来を切り拓いていきます。


CYL-004

CYL-001

CYL-002

CYL-003

CYL-004

砂利スラッジ(CYL-001・002の主な原料)
道路建設や建築用途で大量に使用される砂利の選別・洗浄過程で生じる細かい土砂や粘土を「砂利スラッジ」と呼びます。発生した「砂利スラッジ」は、一部が瓦の原料として使用されますが、大半は産業廃棄物として処分されています。

微粒珪砂 キラ(CYL-003・004の主な原料)
微粒珪砂は水簸(すいひ)という手法で粘土を製造する際に発生する産業副産物です。(キラ)という名称は白雲母(キララ)の細片が混じることに由来し、主に瀬戸地域で使われる用語です。微粒珪砂もこれまで多くが、粘土原料の採掘場所に埋め戻すことで処分されてきたものです。

タイルは、遥か昔から人々の暮らしに寄り添い、文化や想いをかたちにしてきた奥深い素材です。ガウディやモンタネーのように、タイルを通じて思想や感性を表現した建築家たちの存在は、わたしたちにとって大きなインスピレーションの源となります。今、わたしたちはその歴史を受け継ぎながら、資源の枯渇や環境への責任という現代の課題と向き合っています。そんな今日だからこそ、わたしたちはリサイクルという新たな価値をまとったタイルとともに、持続可能な未来への歩みを続けたいと考えるのです。物語はまだまだ終わりません。タイルの美しさと可能性をこれからも未来へ繋げていきます。

 
 

2025.4.8